2025.9.1

健康経営 女性活躍推進 女性の身体の悩み

働く女性の集中力と身体を支える“姿勢習慣”とは?理学療法士が科学的に解説

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女性の活躍が求められる時代、従業員の「集中力」と「健康」をどう支えるかは企業の重要なテーマです。なかでも見落とされがちなのが“姿勢”。実は姿勢は生産性やメンタルに直結していることも多く、女性特有の健康課題にも関わります。本記事では理学療法士が、科学的根拠に基づき「働く女性の集中力と身体を支える姿勢習慣」と企業ができる支援策を紹介します。

なぜ“姿勢”が働く女性にとって重要なのか?

【姿勢が仕事に与える影響】

姿勢は単なる「見た目のきれいさ」ではなく、働く力の基盤です。背中が丸くなり、頭が前に突き出る姿勢では、首や肩の筋肉が常に緊張し、肩こりや頭痛を引き起こしやすくなります。腰が丸まった姿勢でも常に腰の筋肉が伸ばされた状態となり、腰の痛みや疲労感、ヘルニアになるリスクもあります。反対に腰が反りすぎる姿勢では、腰の筋肉が縮こまって血流が悪くなり痛みにつながる場合や疲労感の原因になります。厚生労働省の調査でも、働く女性の約7割が「肩こり」、5割近くが「腰痛」を自覚していると報告されています。こうした不調は単に身体の問題にとどまらず、「集中力が続かない」「仕事に没頭できない」といったパフォーマンス低下に直結します。つまり姿勢は健康だけでなく、日々の仕事の質を左右する重要な要素になります。

【座り方と女性特有の健康課題】

働く女性にとって、姿勢は「骨盤」と「骨盤を支える筋肉」との関わりがとても重要になります。特に「骨盤底筋群」と呼ばれる筋肉が重要です。
長時間の座位や不良姿勢による圧迫は骨盤底筋群の働きを弱め、尿漏れのリスクにつながったり姿勢を保つ力の低下に繋がります。加えて妊娠・出産を経験すると、さらに骨盤を支える靭帯や筋肉には一度大きなダメージを受けています。人によっては骨盤底筋群などが硬くなりうまく筋力を発揮できない場合もありますし、弱くなりうまく筋力を発揮することができない状況になることもあります。座り方の影響も大きく受ける部位であるため、女性特有の健康課題を予防改善するためにも姿勢に着目することは重要であると言えます。

実際に、日本泌尿器科学会の調査では、産後女性の約3人に1人が尿もれを経験しているとされています。これは「年齢を重ねたら仕方ないこと」ではなく、日常の姿勢であったり、骨盤まわりのケアを行うことで予防・改善することも可能です。

【呼吸の質と自律神経の安定】

日々生活している中で、呼吸の質に着目することはほぼ皆無だと思いますが、呼吸の質を高めることで大きく身体も変化します。そもそも呼吸は、身体に酸素を取り込んで、全身にその酸素を巡らせるために重要な働きをしています。呼吸のために働く最も大きく重要な筋肉は横隔膜という筋肉です。この筋肉が呼吸に働く筋肉たちの約70%の働きを担っています。この筋肉は猫背姿勢などで、姿勢が崩れるとうまく働くことができなくなります。結果的にほかの筋肉で呼吸運動をフォローしなくてはなりません。その時に代わりに働く筋肉が肩こりなどに影響してしまうのです。
また姿勢が崩れることで交感神経が優位になりやすく、それに伴い疲労やイライラや不安感が増えることなどがわかっています。横隔膜がうまく働くことができるということは深呼吸がしっかりできる状況であり、深呼吸することで副交感神経を働かせることができリラックスなどにつながってきます。

姿勢と集中力の関係:科学的メカニズム

【姿勢が脳のパフォーマンスに影響する理由】

姿勢は単なる身体の配置ではなく、脳の働きに直接的な影響を与えます。特に、前傾姿勢や猫背は脳の前頭前野の活動を低下させる可能性があると言われています。前頭前野は注意力・判断力・意思決定などの機能を担っており、筑波大学の研究では、姿勢の崩れが脳の酸素供給を妨げ、認知疲労を引き起こすことが示されています(筑波大学スポーツ医学研究室, 2022)。

また、姿勢が安定していると、脳はバランス維持に余計なリソースを割かずに済み、思考や集中にエネルギーを集中できるという報告もあります(J-STAGE「姿勢選択能力と運動パフォーマンスの関係」)

【呼吸・酸素供給と集中力関係】

姿勢が呼吸に与える影響は、集中力にも直結します。猫背などの姿勢では横隔膜が圧迫され、呼吸が浅くなり、肺の換気効率が低下します。これにより脳への酸素供給が減少し、認知機能が低下する可能性があります。福岡大学の研究では、酸素飽和度の低下が脳の認知機能に悪影響を及ぼすことが示されており、特に注意力や記憶力の低下が確認されています(福岡大学総合研究所報告, 2020)。深く安定した呼吸を促す姿勢は、脳のパフォーマンスを維持するために不可欠です。

【自律神経とストレス耐性の変化】

姿勢は自律神経系にも影響を与えます。自律神経は交感神経(活動・緊張)と副交感神経(休息・回復)から成り立っており、姿勢の変化によってそのバランスが左右されます。
広島大学の研究では、背筋を伸ばした姿勢が交感神経の過剰な刺激を抑え、心理的覚醒度と快適度を高めることが確認されています(広島大学大学院総合科学研究科, 2014)。逆に、前かがみの姿勢はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を促進し、ストレス耐性を低下させる可能性があると報告されています

【ポジティブ姿勢と感情・モチベーションの関連】

姿勢は感情やモチベーションにも密接に関係しています。心理学的研究では、胸を張った姿勢が自己肯定感や意欲を高める効果があることが示されています。ハーバード大学のAmy Cuddy教授による「パワーポーズ」の研究では、2分間の姿勢によってテストステロン(自信)とコルチゾール(ストレス)のレベルが変化し、行動の積極性が高まることが報告されています。
また、ポジティブな姿勢は脳内の報酬系を刺激し、ドーパミン(やる気や幸せな気持ち)の分泌を促進することで、モチベーションの維持にも寄与します。これは、姿勢が単なる身体的要素ではなく、感情のトリガーとしても機能することを示しています。

働く女性に多い姿勢の傾向と課題

【デスクワークで増える猫背・巻き肩】

デスクワーカーのオフィス環境では、長時間の座位作業が日常化しており、特にPC作業時の姿勢が猫背や巻き肩を助長しています。猫背は背中の胸椎と言われる部分の弯曲が強まり、肩が前方に巻き込まれる「巻き肩」状態を引き起こします。東京大学の研究では、長時間の座位姿勢が肩甲骨周囲筋の筋活動を低下させ、肩こりや頭痛の原因となることが示唆されています。さらに女性は男性に比べて筋力が低いため、姿勢保持に必要な筋持久力が不足しやすい傾向があります。これが長時間の作業による姿勢崩れを加速させる要因となっています。

【妊娠・出産の影響】

妊娠・出産は女性の身体に大きな変化をもたらし、姿勢にも深刻な影響を及ぼします。妊娠中は胎児の成長に伴い、腹部が大きくなり、重心の位置が大きく変化します。 お腹の質量が増えるため、腰で支える割合が増えてしまうため腰部への負担が増加してしまいます。妊娠中はホルモンバランスなどの影響により関節が少し緩くなるため、姿勢保持が不安定になる傾向があります。産後も育児による前傾姿勢(授乳や抱っこ)が続くことで猫背や巻き肩が慢性化するリスクがあります。妊娠中から起きる姿勢の変化は産後の育児の姿勢によってより負担が増してしまう場合が多く、適切な介入や支援が必要な場合もあります。
姿勢だけではなく、骨盤底筋群と呼ばれる排泄をコントロールする筋肉などにも影響を与え、尿漏れなどの症状に悩む場合もあります。

姿勢習慣の改善がもらたす効果

【集中力・生産性の向上】

姿勢が整うことで肺が十分に広がり、呼吸が深くなります。これにより脳への酸素供給が安定し認知機能が向上し脳のパフォーマンスに影響します。不良姿勢の時間が減ることで、肩こりや腰痛の原因となる筋への負担が軽減する可能性があり、そういった症状が減ることもあります。痛みなどによる集中力低下が起こりにくくなることが考えられます。

【メンタルヘルスの安定】

姿勢は交感神経と副交感神経のバランスに影響すると言われており、精神的な安定と集中力の持続に関与します。姿勢が悪いと呼吸が浅くなることなども影響し、交感神経が優位に働きやすくなることがあります。本来であれば適切に交感神経が働くことで、集中力が向上するのですが副交感神経との切り替えがうまくいかなくなると反対に注意力が散漫になり作業効率が低下すると言われています。

【骨盤底筋の強化】

背中が丸まって骨盤が後ろに倒れるような姿勢では骨盤底筋群に負担がかかるような座り方になっており、この姿勢が常態化することで、骨盤底筋が硬くなったり、結果的に弱くなり、尿もれなどのトラブルに繋がってしまったり、腰痛や姿勢崩れなどにも影響を与えてしまいます。骨盤底筋のエクササイズも骨盤が後ろに倒れた姿勢ではうまく働かせにくくこの姿勢でトレーニングをしようと思っても効果が出にくいです。横隔膜と協調して働くこともわかっているため、まずは深呼吸のしやすい姿勢を取ることで骨盤底筋の強化につながっていきます。

働く女性が取り入れやすい姿勢習慣

【骨盤を立てる座り方を意識する】

ポイント:骨盤が後ろに傾かないようにすることで腰痛や尿もれなどの影響を軽減することができる

  • ◉骨盤が後ろに倒れると、腰椎が丸まり、猫背姿勢にもなりやすくなります
  • ◉骨盤底筋群の機能も低下しやすく、尿もれや体幹の不安定性につながります
  • ◉椅子に座る采は、坐骨というお尻の下の骨で座る意識を持つことや背中の少し高い位置にクッションを入れることでサポートしてくれます。

【30分(1時間)に1回「マイクロブレイク」を取る】

ポイント:長時間の座位による筋疲労・血流低下を防ぎ、脳の覚醒度を維持する

  • ◉立ち上がって1~2分歩いたり伸びをするだけでも血流が改善され、脳への酸素供給が安定します。
  • ◉前述もしましたが、筑波大学の研究で、短時間の立位や軽運動が脳の活動を活性化し認知疲労を軽減することが示されています。

【呼吸と連動した骨盤底筋トレーニング】

ポイント:姿勢保持・尿もれ予防・集中力向上に効果的

  • ◉吐く息に合わせて骨盤底筋を締める、吸う息でゆるめることで呼吸と筋活動が連動します。
  • ◉椅子に座ったままでもできるためオフィスや在宅勤務中にも取り入れやすいです。

企業ができる支援

【姿勢に配慮したオフィス環境の整備】
◉エルゴノミクスチェアや昇降式デスクの導入。エルゴノミクスチェアは人体工学に基づいた設計で身体の負担を軽減するとされています。
◉モニターの高さ調整器具の提供
◉フリーアドレス制を活用し座りっぱなしを防ぎ自然なマイクロブレイクを促進する

【姿勢・呼吸などに関する社内研修の実施】
◉理学療法士やヨガインストラクターによるセミナー
◉オンライン動画や社内ポータルでのセルフケアコンテンツの提供
◉妊娠、出産後の女性向けの専門プログラム

【姿勢習慣を促す時間設計・制度の導入】
◉マイクロブレイクの設定
◉昼休みなどに「姿勢リセットストレッチタイム」を設ける
◉在宅勤務者向けの姿勢チェックサポート

まとめ

働く女性にとって、正しい姿勢習慣は単なる健康管理ではなく、集中力・生産性・自己肯定感を高める「土台づくり」です。日常に無理なく取り入れられる習慣が、心身の安定とキャリアの持続性を支えます。一方で、企業がこの姿勢習慣を支援することは、女性の働きやすさを高めるだけでなく、健康経営・人的資本経営・ジェンダー平等の推進にもつながる戦略的な取り組みです。オフィス環境の整備、社内研修、制度設計などを通じて、企業と個人がともに「持続可能な働き方」を築いていくことが求められています。弊社でも理学療法士を派遣して従業員の皆様の働く土台づくりをサポートさせていただいていたり、グループレッスンでのストレッチイベントなどを開催しています。

記事執筆〉

熱海 優季

【保有資格・修了】
理学療法士免許
アメリカ理学療法士協会認定「骨盤底の理学療法Level1」修了

【執筆】
『女神筋(骨盤底筋)が目覚める! 「女性のヨガと子宮の整体法で女性の不調と悩みを解決! 」』
『女性の不調と悩みを解決!! 女性のヨガと子宮の整体法』

【取材掲載】

  • ◉もっと健康に、もっと美しく 日経ヘルス2015年1月号
  • ◉セラピスト 2014年12月号 DEC. vol.76 子宮の機能を高める
    「整体」+「セルフケア」 骨盤底筋群と骨盤の総合ケアで婦人科系トラブルを一掃! 監修
  • ◉セラピスト2013年12月号 DEC vol.70 「セラピー」+「国家資格」で夢・想いを叶える
  • ◉アイセイ薬局2015年冬号 ヨガで快尿

これまで延べ20,000人のリハビリや運動指導に携わり、ウィメンズヘルスの分野では専門家や一般向けの講演件数100件以上、上場企業などでのセミナーも開催。

新人時代に出会った患者様の『生理が始まってから1度も自分の身体が健康だと思えた日がない』という言葉に衝撃を受け、ウィメンズヘルスの領域を専門に学び始める。現在は産前産後の女性や生理関連の不調、更年期など女性特有のライフステージの変化に伴う身体の不調に対して運動指導や施術などを行っている。

また女性向けの健康経営にも携わり、コンテンツの作成や、ヘルスリテラシー向上のために企業で働く従業員向けのウェビナーやイベントなども実施。自身も3児の母。

弊社では、国家資格を保有している理学療法士や作業療法士が運動指導やヘルスリテラシー向上のための研修、オフィスに出張してストレッチや施術を行うサービスなどを行っております。数名の企業から大企業まで、業種問わず、良い評価をいただいております。

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