2026.7.16
健康経営健康は“投資”である──従業員の体と安心を守る、中小企業3社のリアル
「健康でなければ、いい仕事はできない」「社員を守るのが会社の役目」「長く元気に働き続けてほしい」 そんな想いから健康経営に踏み出した、3つの企業の「働く環境づくり」。 業種も規模も違う取り組みには、“守る”“予防する”という共通の発想がありました。
“使い捨てじゃない、仲間だから”──女性社長が挑む、プロテックのトライ&エラー
会計システムの開発・運用支援を手がける【プロテック株式会社】。従業員19名のこの会社で、2023年に社長へ就任した小松麻衣さんは、就任以来、働く環境の改革に走り続けてきました。
実は小松さん、20代の頃にも一度、平社員として同社で働いた経験があります。就職氷河期に社会へ出た世代。当時の職場は、いわゆる“昭和の会社”でした。 「分煙すらしていなくて、デスクでたばこを吸っている人がいる時代でした。服に匂いもつくし、女性はすごく嫌ですよね。エチケットの部分から切り込んで、分煙を進めたんです」 当時から副流煙の健康被害を訴えるなど、健康への意識は人一倍持っていたといいます。
2023年に社長として戻ると、まだ残っていた喫煙室を撤去し、オンライン会議用の部屋へ。 「自分が嫌だと思うことを、全部排除していった感じですね」 子育て中の社員が自分しかいなかった当時、あえて時短制度を導入し、「子どもを持ちながらでも、ちゃんと働ける」ことを自ら示しました。新たに生まれた“パパ社員”のために、パパママ育休制度も社内に広く周知していきました。
改革は順風満帆ではありません。就任2年目には、毎月のように退職者が出る苦しい時期も。 「正直、勢いだけはあるんです。でも抜けも多くて、そういうところが許せない人は辞めていく。ただ、ずっと支えてくれた取締役や課長のメンバーが、みんな同じ方向を向いて相談しながらやれている。痛みを伴わないと変わらない。今はいい方向に向かっていると思います」
原点にあるのは、「社員を使い捨てのようには思っていない」という想いです。 「小さい会社ですし、仲間として働きたい。仲間には健康で、元気に、ニコニコして、長く働いてもらいたい。長く働くための土台は、やっぱり健康に尽きると思うんです」 健康自販機の設置や「オフィスで野菜」キャンペーン、歩数に応じてドリンクがもらえるアプリなど、施策は多彩。「健康自販機で一番売れるのがエナジードリンク」という笑い話もありますが、強制はせず、自然と健康を意識できるきっかけづくりを続けています。お客様からいただいたお米で、社長自ら豚汁を振る舞う“大炊飯大会”も名物です。 「トライはたくさんした。今はエラーを修正しているタイミング」。働きやすさと生産性のバランスに向き合いながら、仲間の健康を願う挑戦が続いています。
◎プロテック株式会社:
URL:https://www.protech-web.co.jp/
“人が源泉”だから健康に投資する──戦略と人情を両立する、大手商社会社グループ企業
国内外グループ企業1000社、グループ国内の人事を支える同社。従業員140名ほどの同社は、緻密な「健康経営戦略マップ」を掲げ、健康経営を人事戦略の中核に据えています。コーポレート推進部・部長の安藤さん・木村さんに伺いました。
「私たちの源泉は“人”なんです。物を売る会社ではなく、一人ひとりの推進力こそが会社の力になる。健康でない人が、パフォーマンスを発揮できるわけがない。だから健康は、僕らにとって切り離せない、とても大事なところなんですよね」
同社が重視するのは、“予防”の視点です。 「不調になってから対処するだけでなく、健康なうちから予防し、良い状態を維持していくことが大切だと考えています。 」
かねてから健康経営には取り組んでいたものの、2016年に「人事戦略の一つ」として明確に位置づけ、トップがメッセージを発信するようにしたことが転機でした。 「なんとなくやっている、自分には関係ない、と思われては届かない。会社として、トップとして推進していく、という位置づけがないと、社員には伝わらないんです」
一方で、戦略マップやKPIを掲げつつも、「数字を上げるために何かをやる、という発想は当社には適さない」と安藤さんは言い切ります。「健康の“状態”は、人によって違う。究極は、一人ひとりが自分の健康状態をしっかり把握し、予防でき、いざという時には会社が家族も含めてサポートできること。その“安心”を持ってもらうのが第一だと思っています」 昨年からは性別特有の健康課題にも注力し、更年期や不妊治療のセミナーには多くの社員が参加しました。施策はアンケートや健診データに基づき、社員が本当に求めるものを見極めて設計されています。
最大の課題は、40〜50代の受診率です。 「体調面で大きな変化を感じていないことから、受診の優先度が下がってしまうケースがあります。そのため、再検査の対象となった方への受診促進を重要な課題の一つと捉えています。 」 そこで今年度から、精密検査に該当した社員の検査費用を会社が負担する取り組みを開始しました。社員数が比較的少なく、「顔と名前が分かる」規模だからこそ、状況を把握し、一人ひとりに向き合える。戦略と人情を両立させる姿勢は、100名規模の企業にも通じるヒントに満ちています。
“安全”の次は“健康”──従業員を守り抜く、新雪運輸の15年
食品輸送を担う【新雪運輸株式会社】は、従業員約300名を抱える運送会社です。平均年齢は51歳。業界特有の課題と向き合うなか、「従業員を守る」という一貫した思想で、安全対策から健康経営へと歩みを進めてきました。健康経営担当の石田さんに伺いました。
「運送会社なので、まずは安全第一。事故防止に力を入れてきました」 その象徴が、15年以上前に全車両へ導入したドライブレコーダーです。当時はまだ世間に普及しておらず、車内カメラは「プライバシー侵害だ」「会社に監視されている」と反対の声が多かったといいます。 「でも、これは健康経営と一緒で、従業員を守るという意味なんです。監視ではなく、何かあった場合に──たとえば事故を起こしても、悪くない事項はたくさんある。それを証明して、従業員さんを守るためなんです」 前後だけでなく車内にもカメラを設置し、「なぜここまでするのか」と言われるほど早くから取り組んできました。
安全性優良事業所マークを早くから継続取得してきた同社にとって、健康経営は安全の“次のステージ”でした。若手が入りにくく平均年齢が上がるなか、「体にガタが来る年齢だからこそ、会社に何かできないか」という想いも背景にあります。
施策は、トップダウンとボトムアップの両輪で生まれます。コストの大きいがん保険や業務災害総合保険は、高齢化する従業員を思う代表の判断で導入。一方、ドライバーら一般社員の代表で構成される委員会からは、現場発の提案が次々と上がります。 「管理職のいない、普段ハンドルを握っている人たちが月に一度集まる委員会なんです。そこからインフルエンザ予防接種の補助や、禁煙外来の費用一部負担などが決まっていきました。現場で働く人が、何がいいかを一番知っていますから」
24時間稼働で拠点も分かれるため、集合型のイベントは困難です。そこで、指を入れるだけでストレスや心拍数を測れる機器を全拠点に設置。自宅に薬が届くWeb診療サービスも導入し、「病院に行く時間がない」ドライバーでも使える仕組みを整えました。 これからの季節は熱中症との戦い。冷房のない倉庫で働く社員のために、空調服やスポットクーラー、経口補水液を用意し、現場の声から生まれたネッククーラーの導入も検討中です。睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査も進め、予防に軸足を置いた取り組みを広げています。 「従業員がやめずに働けるように」。その一貫した願いが、新雪運輸の環境づくりを支えています。
◎新雪運輸株式会社:
URL:https://www.shinsetsu.co.jp/
健康を“コスト”ではなく“投資”と捉える、3社の共通点
3社に共通していたのは、健康や安全を「かかる費用」ではなく、「従業員を守るための投資」ととらえている点でした。
- ◉プロテック:仲間だからこそ、健康で長く働いてほしい
- ◉豊通ヒューマンリソース:“予防”と一人ひとりの安心を第一に
- ◉新雪運輸:“守る”を起点に、安全から健康へ
数字を追うためでも、認定を取るためでもなく、「社員に長く健康で働いてほしい」という想いが起点にある。 予防に軸足を置き、現場の声を拾いながら、自社の規模や働き方に合った形を模索し続ける。その積み重ねこそが、これからの健康経営を前へ進めていきます。
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